季晴の経営方針の特色に大幅な権限委譲があります。季晴からの「おまえ、やってみい」で、任された当人が戸惑うほどの権限を与えられて必死に奔走する社員は少なくありませんでした。それぞれに、ここまでやっていいものかと恐る恐る取り組み始めます。初めて導入するものであったり、会社の経営に関わるものであったり、大きな数字が絡むものだったりと様々です。もちろん中には失敗した事案もありました。しかし多くは現在のサンキンにも通じるシステムや仕事への取り組み方として脈々と受け継がれています。
季晴の一見乱暴な「おまえ、やってみい」には裏付けがあります。まず第一に「任されればやってやろうという気になるもんや」という意気に感じる心理に訴えること。二つ目に社員をより成長させるためには背伸びが必要な事案を与える必要があること。何もかも教えてここからこの範囲内で仕事しなさい、では失敗もないかわりに人は育ちませんから。そして三つ目に季晴自身が持っている資質によるものです。
季晴は自慢をする人ではありませんでしたが、季晴自身を評して「自分には特別な能力はありませんが、一つだけ、勘が良いと言えるかもしれない。この人物はこの仕事に向かないとか、この組織にはここに問題があるとかがよく見えるのです」と語っていました。きっと「おまえ、やってみい」の裏には、この人間はこの仕事で大きく成長するに違いない、というのが見えていたのでしょう。