事業を進めていきますと、どうしても会社対会社のトラブルは避けられません。ある会社とのクレーム問題が生じたときの話です。双方の意見が食い違い、なかなか解決の糸口が見いだせません。相談を受けた季晴はこう言いました。
「交渉ごとというのはな、双方に不満が残るのが大切や」
片方だけが満足して、もう一方だけに不満が残るようなことがあってはいけない、と言うのです。
「どちらも満足できるというようなことは、まずあり得ない。そやからな、双方にちょっとずつ不満が残るくらいの解決方法が一番ええ。それでええ、それでええんや」
こちらの言い分を一方的に押し通すよりも、先方の言い分にも耳を傾け、お互いに飲み込める落としどころを探りなさい。そんなニュートラルな位置取りも季晴の考える正姿勢の一部でした。
季晴はもともとが銀行マンであったためか、信用に関しては非常にうるさかったといいます。信用は誠心誠意がもたらし、誠心誠意は正姿勢から生まれる……なかなかの頑固者であったようで、税務署への対応でも正面切ってケンカして絶対に妥協しなかったそうです。意地をはって税務署の署長といえども自分の執務室には入れさせませんでした。信条であるところの正姿勢。そこにやましいところは一切ない。執務室のドアを開ける、開けないは、自分の信条に関わる重大事で決して譲れなかったのでしょう。