田季晴の考え方を象徴する言葉に「正姿勢」があります。お客様、仕入れ先様、上司、部下……会社と会社、人と人のあらゆる接触の場においてきっちりと筋を通せ、と繰り返し季晴は説きました。自分より上位にあるものに対してへつらったり、服従する必要はない。また逆に下位にあるものに対して横柄であったり、理不尽な要求をしてはならない。ビジネスマンとして、そして人として真っ直ぐな姿勢を求めたのです。
いくつか例を挙げましょう。
例えば手形について。「お客様にはものを買っていただくわけやが、それは一面『お金を貸している』ことでもある。仕入れ先からはものを買っている、と思うてるやろが『お金を借りている』ことでもある。だから常に『対等の姿勢』でなければ判断を誤る」と季晴は言い残しています。ものの売り買いの表と裏を突く言葉であり、カネを出す方が単純に上だと思うとビジネスの道を誤る、と戒めたのです。
また、わかりやすいところでは「ウチより小さい会社にご馳走になったらアカン」と、下位に位置するものに負担をかけるような行為を非常に嫌っていました。ついでに言い添えますと「ウチより上ならナンボでもご馳走してもらえ」だったそうです。
第一次オイルショック(1973〜74年)の話になりますが、当時はものさえあればいくらでも高値で売れた時代。しかし「なんぼ儲かる話でも一見さん(初めての客)に売ったらアカン。従来からのお客様に適正なマージンで商品を渡せ」との姿勢を貫きました。月次の決算報告でも利益が出過ぎると季晴は怒ったそうです。「こんな利益が出るわけない、これは上乗せしとるんとちゃうか」と。今でも当時を知る特約店の方からは、他のように暴利をむさぼらず物を回してくれたと懐かしむ声をいただきます。
さて、暴利とは逆の赤字についても季晴は厳しかった。赤字は罪悪である、との考え方でした。ここでも正姿勢を求めていたと付け加えておきます。