仕事について季晴は厳しい人でした。曖昧な話ばかりすると怒ります。「もう君の顔は見たくない。家におってくれたらええわ。会社来んでもええよ」とキツイ叱責を何度も受けたOBもいます。
その一方で他人の話をよく聞き、怒らせずに人を諭す名人でもありました。OBの一人がこんなエピソードを語っています。
創業まもない頃、色々と問題が生じて現場の責任者だったその若き日のOBは仕事を放り投げて、工場の敷地内の日当たりのいい場所でふてくされていたそうです。季晴が外出から帰ってくると責任者がいないので現場は大混乱。季晴はOBのところへ行きます。これは怒りに来たな、こちらにも言い分がある、文句の一つも返してやろうとOBは身構えます。ところが季晴は「今日はええ天気やなあ。ここは日当たりええし、思案するにはちょうどええな」とのんきなものです。それからは駅でこんな事があったとかとりとめのない世間話ばかり。半時間ほどしてから「ゆっくり考えて、ええ思案できたらまた一つ頼むで」と。結局一言も怒らずに去って行きました。頭を冷まされたOBは、この人になら少々何があってもついていこうと心に誓ったそうです。
こんな話もあります。ある社員が新部署を作って積極果敢に販路拡大を図ったものの販売先の会社が倒産して、多額の焦げ付きが発生しました。彼が覚悟を決めて季晴に謝罪に行きますと「まあ座りいな。これも君の人生経験。いい勉強やと思うてこれからもがんばってくれ」と思いがけずのありがたい言葉。実はその社員とは「会社に来なくていい」と何度も怒られていたOBその人です。